一日につき千文字くらい

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『アジフライ』#6

「好きな食べ物はなんですか」

“うーん、アジフライ、ですね”。

「そう」問われれば、“こう”答える。アジフライ好きなんです。

「いつから」

意識したことはないんですが、中高生の頃だったろうと思います。うちでの揚げ物は基本的に買い物で、家で揚げることはないんです。それもあってちょっとだけ、揚げ物を毛嫌いしてた時期もありました。よくテレビや漫画で描写される「サクッとした衣」「中のジューシーさ」はトースターやオーブンではピンとくる再現がされず、重たい油の感じが苦手でした。ただ、アジフライに関して言えば、衣がしっとりしていても温めてあれば、いや冷たくさえなければ、醤油をぽちぽちっと垂らしてアジの食感と塩味をおいしく食べれて好きでした。油とか、衣とか、なんでか気にならなかったんです。不思議なもんで。

「すると、、あまり得意でなかったお惣菜の揚げ物のなか、アジフライを“認め”られたことが初まりだったんですね」

まったく偉そうな話ですよね。いまはどの、スーパーのお惣菜にも抵抗はありません、反抗期なだけだったんです、おそらく、恥ずかしい話ですが。勿論カラッと揚がって身がジューシーなアジフライなら、言うことありません。最高です。

「ところで恐縮ですが、好きな食べ物として一番に“アジフライ”を挙げるひとは、なかなか珍しいように思いますが、、」

ーーっと、アジフライトークを展開してきた今回のノートは、今日読み終わった村上春樹さんと柴田元幸さんの『翻訳夜話』という本のある部分に端を発するものです。

以前に村上さんに寄せられた相談で、入社試験に際して原稿用紙3枚で自分について書きなさいと企業から課題が出されたが3枚程度で書けるわけがない、村上さんなら、というものがあったそう。

それに対して、自分について書こうとしたら足りないし煮詰まってしまうとして、「カキフライについて書きなさい」と村上さんは言う。以下に続きを引用します。

 

“村上ーーえーと、つまり、僕が言いたいのは、カキフライについて書くことは、自分について書くことと同じなのね。自分とカキフライの間の距離を書くことによって、自分を表現できると思う。(中略)いちばん必要なのは、別の視点を持ってくること。それが文章を書くには大事なことだと思うんですよね。みんな、つい自分について書いちゃうんです。でも、そういう文章って説得力がないんですよね”(村上春樹柴田元幸『翻訳夜話』文春新書,2000,p235,l5)

 

読んだときに脳が言った。「あ、今日のノートのお題決まったわ」と。「アジフライ書くっきゃないっしょ」と。

まさか、村上春樹のアジフライと(書き間違えたけどこのままでいいやと押し切ります)、私のアジフライとがシンクロニシティを発揮するとは思いもよらなかった。

私にとってのアジフライとは、単純に「一番好きな食べ物」ではなくて、あくまで「好きな食べ物は」と聞かれて答えるものなんです。

会話・友好のきっかけとして「好きな食べ物」を聞くこと聞かれることはとても多い。私はメロンも好きだしガパオライスも好きだし豚肉と白菜のミルフィーユ鍋だって好きだ。というか、嫌いな食べ物が無くて、食べ物全部好き、みたいな食いしん坊。それでも、何かをと答えるときに、考えた。誰もが知っていて、調理に変に手が込んでいなくて、身近で手に入りやすく、あまり嫌いだって言う人が少なそうなもの、…そしてできれば「なんでそれを一番に挙げるの」ってリターンが期待できるもの、という選考を通過した(って理屈付けをしている)のがアジフライだった。

私はこうして、私とアジフライとの距離をもって、誰かとの距離を縮めるきっかけとしているのです。

アジフライトーク終了。

 

#アジフライ #171221